「斗酒詩百篇」——詩人・李白の酒と詩が、一本のワインになるまで

「斗酒詩百篇」——詩人・李白の酒と詩が、一本のワインになるまで


名前の中に、物語がある

詩百篇(Chapter and Verse / Shi Bai Pian / しひゃっぺん)

このブランド名を初めて見たとき、「詩が百篇」という意味だと気づく人は少ないかもしれません。でも実は、このネーミングには1200年前の中国にまでさかのぼる、深いストーリーが込められています。




李白と「斗酒詩百篇(とうしゅしひゃっぺん)」


唐の時代(618〜907年)、中国文学史上最も名高い詩人のひとり、李白がいました。「詩仙」と称されたこの天才詩人は、酒を愛し、杯を傾けるたびに傑作を生み出したと伝えられています。
同じ時代を生きた詩人・杜甫は、「飲中八仙歌」という詩の中で、李白をこう詠みました。


李白斗酒詩百篇長安市上酒家眠天子呼来不上船自称臣是酒中仙
「李白、斗酒にして詩百篇。長安の市上、酒家に眠る。天子呼び来たれど船に上らず、自ら称す、臣は是れ酒中の仙と。」


意訳すると、こうなります。
「李白は一斗の酒を飲み、百篇の詩を書く。長安の酒屋の奥で眠り、皇帝から御座船に招かれても、『私は酒の中の仙人だ』と言い放った」

酒と自由と詩——この圧倒的なエネルギーが、ワインブランドの名前の源となりました。




ワイナリーが「詩百篇」を選んだ理由


カナンワイナリー(Canaan Winery / 迦南酒業)は2006年、北京から車で約1時間の河北省・懐来県に設立されました。創業者は台湾のIT企業HTCの共同創業者・王雪紅(Cher Wang)氏。ワインへの情熱が、テクノロジー界の成功者を農業の世界へと導きました。

設立から約15年、畑づくりと醸造技術の研鑽を重ね、商業リリースの準備が整ったとき、ワイナリーは「詩百篇(Shi Bai Pian/しひゃっぺん)」という名を選びました。

理由のひとつは実用的なものです。寧夏地区に「Kanaan」という別ブランドが存在しており、混同を避けるためにブランド名を変更する必要がありました。しかし、単なる差別化ではなく、この土地に根ざした名前を選んだことに意味があります。

懐来は唐の時代から1200年以上のブドウ栽培の歴史を持つ土地。李白が活躍した時代と重なります。酒と詩と土地の記憶——すべてがひとつの名前に凝縮されました。


ボルドー帰りの醸造家が率いる技術


詩百篇のワインを手がけるのは、チーフワインメーカーの趙徳昇(Zhao Desheng)氏です。2003年からドメーヌ・フランコ・シノワ(隣接するフランス中国合同ワイナリー)に携わり、ボルドーで醸造を学んだキャリアを持ちます。
趙氏は、カナンワイナリーとドメーヌ・フランコ・シノワ両ブランドのワインを同じ醸造設備で手がけています。320ヘクタールの畑から生まれるワインは、年間約55万本。「小規模ブティックワイナリーだけが高品質ワインを作れる」という先入観を覆す規模でありながら、品質の一貫性を保ち続けています。

2024年にJames Sucklingが「Chinese Wine of the Year」に選んだのも、その一貫した品質への評価です。趙氏は「2019年は温暖で乾燥した夏と涼しい秋という理想的なヴィンテージだった」と語っています。




「詩百篇」というブランドが意味すること


ワイン名を聞いただけで、李白の豪快な姿を思い浮かべる中国人は少なくありません。

酒と詩、そして自由。

この文化的な奥行きが、詩百篇というブランドの最大の強みのひとつです。
と同時に、英語名「Chapter and Verse」という表現も秀逸です。「Chapter and Verse」は英語で「正確な出典・詳細な根拠」を意味するイディオム。
「このワインの品質には、確固たる根拠がある」というメッセージが、名前そのものに込められています。

一本のボトルに、唐詩の世界と現代のワイン技術が共存している——それが詩百篇という物語です。



参考資料:Grape Wall of China「From promised land to poet's paradise」、James Suckling「Top 100 Wines of China 2024」、Canaan Winery公式サイト
取扱い:viniverse.co.jp

 

 

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