土地を守り、土地に学ぶ——カナンワイナリーのサステナブルなブドウ栽培哲学

土地を守り、土地に学ぶ——カナンワイナリーのサステナブルなブドウ栽培哲学

 

産地選定から始まる、科学的アプローチ

カナンワイナリーの歴史は、2006年に遡る。
設立にあたり、気候・土壌・栽培・醸造の各分野における海外専門家チームが、高品質ワインの生産に適した中国の産地を2年間にわたって調査した。地質情報技術(GIS)を活用して400以上の土壌サンプルを採取・分析し、地質・標高・土壌・気候の4軸で評価した末に選ばれたのが、河北省・懐来である。




最終的に選定されたのは600ヘクタールの土地。
「
懐来のテロワールには、世界一流のワインを生み出す可能性がある」という確信のもと、カナンワイナリーは次世代のワイン生産者を育てるという理念とともに設立された。

この徹底した科学的アプローチは、ワイナリーの農業哲学全体に一貫して流れている。



3つの区画が生む、テロワールの多様性

カナンワイナリーの畑は、官庁ダムを挟んだ南北に広がる3つの区画(Site 16・Site 17・Site 133)から構成されている。総面積は276.3ヘクタール。標高498mから1,050mにわたる垂直分布が、それぞれ異なる微気候と土壌条件を生み出している。




 

Site 16(北緯40°31'、標高920〜1,050m)は年間平均気温8.68℃と3区画中最も冷涼で、ピノ・ノワール、シャルドネ、リースリング、ピノ・グリなど、繊細な酸味と香りを要求する品種が主体である。

Site 17(北緯40°17'、標高560〜670m)は166.6ヘクタールと最大の区画で、カベルネ・ソーヴィニョン、メルロー、シラー、マルスラン、テンプラニーリョなど赤系品種が中心だ。

Site 133(標高498m)はカベルネ・ソーヴィニョンとメルローの区画で、官庁ダムに最も近く、水面からの温度調整効果を最も受ける立地にある。

土壌は砂礫質ロームが主体で、排水性に優れ、ブドウの根が深く張るために理想的な物理特性を持っている。

 


循環型農業の実践——土壌を壊さない栽培哲学

カナンワイナリーの農業の根幹は、土壌生態系の保全にある。
ブドウの樹の列と列の間には草や植物を意図的に育て、土壌の保水力と微生物の多様性を維持している。この植物たちは単なる雑草管理ではなく、土壌中の窒素固定・有機物供給・浸食防止という複合的な機能を果たしている。




収穫が終わった冬には、一年分のブドウの枝を細かく砕いてそのまま土に埋め戻す。
搾汁後に残る果皮・種・果梗(ポマース)も発酵処理のうえ土壌に返す。外部から化学肥料を持ち込まず、畑の中で栄養を循環させる——これがカナンワイナリーのサステナブル農業の核心だ。

さらに特筆すべきは、羊と馬を畑に放牧する自然農法の実践である。羊はブドウの葉を、馬は草を食べ、その糞が天然肥料として土壌に還元される。
畑管理マネージャー・方凱氏はこう語っている。
「我々が収穫時に畑から持ち出すのはブドウだけ。ブドウの枝も含め、それ以外のものはすべてこの土地に返す。」

畑の開発段階から環境への干渉を最小限にとどめ、原地形を極力保全しながら植生を維持することで、生物多様性の確保にも努めている。強風と砂嵐から畑を守るため、周囲にはポプラの高木を防風林として植えており、自然の力を借りて自然を守るこの発想は、ワイナリー設立当初から一貫している。





2016年には、フランスのワイン専門誌RVF China(La Revue du Vin de France)から「ベスト・ヴィンヤード・マネジメント・チーム賞」を受賞。さらに2023年には「World's Best Vineyards」に中国ワイナリーとして初めて80位で選出され、2024年には77位へとランクアップ。2年連続でアジア唯一の中国ワイナリーとしてその地位を維持している。


畑からボトルまで——完全追跡管理の仕組み

カナンワイナリーは、土壌・品種・台木の違いに応じて畑を細かい区画に分け、発酵工程まで、どの区画のどの行のブドウか追跡できる完全な追跡管理体制を構築している。

循環農業と同様、この管理体制を支えているのも現場の人間だ。
「製品を発酵工程まで、どの区画のどの行のブドウかまで追跡できる。これが食品安全の重要な保証であり、品質管理の核心的な手段だ」
——方凱氏の言葉は、土への向き合い方と品質への責任が、カナンワイナリーでは一体のものであることを示している。

この徹底した管理が、詩百篇の品質の一貫性を支えている。


データが支える精密栽培

懐来の年間降水量は約400mm。
フランス・シャンパーニュ地方(約650mm)の6割程度で、灌漑管理の精度がブドウの品質を直接左右する。

カナンワイナリーはこの課題に対し、精密農業で応えている。
各区画に設置された気象ステーションは、大気温度・土壌温度・湿度・降雨量・日射量をリアルタイムで計測。そのデータをもとに、点滴灌漑システムが各ブドウ樹の根元に必要な量の水と養分を精密に供給する。

2026年8月には、フランス国立農業・食料・環境研究所(INRAE)、ボルドー大学ワイン・ブドウ栽培研究所(ISVV)、バレンシア大学、スペイン国家研究評議会(CSIC)、バージニア大学、および中国科学院国際交流プログラムの研究者がカナンワイナリーを訪問し、懐来における国際的なブドウ栽培手法の応用を研究した。

苗木管理——品質は植栽前から始まる

カナンワイナリーはワイナリー内に自社苗木部門を持ち、複数の品種とクローンを接木法によって育成している。新規植栽には保護管を使用し、幼木を懐来特有の強風と低冬温から保護する。



冬季には気温が−7℃を下回ることもあるため、ブドウ樹を土中に埋めて越冬させる「埋土越冬」が必要だ。この作業は毎年秋に行われ、春の萌芽前に掘り起こされる。この労働集約的なプロセスが、懐来産区のワイン生産コストの一端を担っており、同時にこの土地のワインが持つ価値の源泉でもある。






おわりに

サステナビリティとは、環境負荷を減らすことだけを意味しない。
土地の個性を次の世代へ引き継ぐために、今何をすべきかを考え続けることである。

カナンワイナリーが実践する精密農業・循環農業・苗木管理・完全追跡管理の体系は、懐来というテロワールの表現を最大化しながら、同時にその土地を保全するための、一貫した哲学に基づいている。

詩百篇のグラスに注がれたワインは、こうした積み重ねの結果である。


参考:Canaan Winery公式サイト、Vino Joy News(https://vino-joy.com/2024/12/09/worlds-best-vineyards-2024-revealed-heres-the-only-chinese-winery-on-the-list/)、迦南酒業・詩百篇 公式WeChat(2023年3月21日)、Vino Joy News(https://vino-joy.com/2026/09/01/from-vineyard-science-to-jazz-festivals-how-canaan-winery-is-taking-chinese-wine-global/)|取扱い:viniverse.co.jp




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